令和6年10月

日本のプロ野球は今、クライマックスシリーズがあと一試合というところですが、リーグ優勝は、セ・リーグが巨人、パ・リーグはソフトバンクでした。その巨人で今も世界記録となっている868本のホームランを放ち、現在はソフトバンクホークスで会長を務める王貞治さんは「打席に立つまでが大事なのだ」ということを強調されています。
私が子どもの頃は、王さんはまだ現役の選手で、一本足打法が代名詞でした。誰でも、やろうと思えば一本足打法らしき打ち方をすることはできます。しかし、王さんがこの打法を一朝一夕に自分のものにできたのかと言えば、もちろんそんなことはなく、そこには並々ならぬ精進の過程がありました。
全体練習や試合が終わった夜の9時頃から、他の選手が帰った後で、何時間でも、何百本でも納得がいくまで素振りを続ける。それを毎日ひたすらに続ける。素振りを続けた部屋の畳は、すり減って穴が開くほどでした。この精進を始めたのがプロになって3年目の10月、結果が出始めたのは翌年の7月のことでした。そのシーズンはそれまでの3ヶ月で9本のホームランしか出ていなかったのが、7月以降にその3倍以上の28本を放ち、ホームラン王と打点王の二冠を獲得したということです。

私たちは、何かができるようになりたい、何かを成功させたいと思ったら、精進努力を継続することが不可欠だと知っています。ところが、目に見える効果がすぐに表れないと、気持ちが萎えてせっかくの努力を放り出してしまうことがあります。
そもそも、努力を始めたからと言って、その効果が正比例のグラフのように直線的に上がっていくかと言えば、そうでないことの方が普通です。飛行機が離陸するには滑走路を走る必要があります。その間は高度0が続きます。しかし、「そのとき」がくればフッと上昇します。それと同じです。それなのにその前にあきらめてしまっては、あまりにもったいないことです。だから、一学期の終業式でも話した、「忍辱」、「忍耐」という心の態度が重要になります。
「成功のコツは2つある。それはコツコツだ」という言葉があります。あきらめてしまいたくなるときに、その己に打ち克つ。勇猛心をふるって、忍耐強くコツコツと精進を重ねていく。それこそが「そのとき」をものにすることを可能にします。一度上昇しても、また停滞状態に陥ることもあるかもしれません。しかし、次の高みに上るためには、やはりコツコツと精進を重ねるしかないのです。

あきらめたらすべてはそこで終わります。しかし、あきらめさえしなければ、「そのとき」がやってくる可能性は消えません。ご家族や先生の言葉、先輩や友だちの実践……、自分以外の人たちから上昇のためのヒントやきっかけが得られることもあります。試行錯誤を繰り返すことがあっても、それも貴重な雌伏の時間です。だから、「明日をみつめて、今をひたすらに」をモットーに、勇猛心をふるって、忍耐強くコツコツと精進を重ねていく。その気概を持ち続けてほしいと思います。

(「朝礼」より)